第10回若手奨励賞(領域12)の受賞者及び受賞理由

 

第10回若手奨励賞は、

石崎章仁さん(自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター)

金賢得さん(京都大学 大学院理学研究科 化学専攻)

2名が受賞されました。おめでとうございます。

賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
(横島智 第10回若手奨励賞審査委員長)


石崎章仁さん(自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター)

研究題目:凝縮相量子動力学理論に基づく光合成エネルギー移動・電荷分離過程の理論研究

対象論文:
"Unified treatment of quantum coherent and incoherent hopping dynamics in electronic energy transfer: Reduced hierarchy equation approach", The Journal of Chemical Physics, 130, 234111 (2009); (10 pages).
"Quantum coherence and its interplay with protein environments in photosynthetic electronic energy transfer," Physical Chemistry Chemical Physics, 12, 7319–7337 (2010).

 
  石崎章仁氏は光合成光捕集系の理論研究を行い、近年実験的に見出された光合成における高速励起エネルギー移動を理論的に説明した。石崎氏は、電子励起系とタンパク質環境の共役した遅い揺らぎが、これまで励起エネルギー移動で使われてきたレッドフィールド理論やフェルスター理論では記述できないことに着目した。石崎氏自身がこの研究に先立って開発した低温でも利用可能な凝縮系量子ダイナミクスのための実用に耐える階層型運動方程式は、レッドフィールド理論やフェルスター理論では記述できないその中間にあたるような問題にも適用可能であることから、その式に基づく解析をおこない、この系の励起エネルギー移動ダイナミクスを明らかにした。光合成系の理解への貢献や、量子凝縮系の問題の理論研究の深化への貢献はもちろんのこと、実験とのタイアップの見事さ、理論を理論の枠組みとしてではなく、実験事実を説明するために切り開く姿勢なども、高い評価につながった。以上のことから、審査委員会は石崎氏が第10回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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金賢得さん(京都大学 大学院理学研究科 化学専攻)

研究題目:核量子性が凝縮系物性に与える影響の計算科学的実証と解明

対象論文:
"Communication: Quantum molecular dynamics simulation of liquid para-hydrogen by nuclear and electron wave packet approach", The Journal of Chemical Physics 140, 171101 (2014).
"Correlations of intra- and intermolecular dynamics and structure in liquid para-hydrogen", Physical Review B 90, 165132 (2014).
"Semiquantum molecular dynamics simulation of liquid water by time-dependent Hartree approach", The Journal of Chemical Physics 131, 064501 (2009).


  金賢得氏は本研究で、古典分子動力学シミュレーションでは捉えられない核の量子性を取り入れるために、まず、半量子分子動力学法を開発した。この方法は核波束の自由度が古典的な運動方程式の形で与えられるため、計算量が比較的少なく、この手の計算としては極めて大規模な系への適用例を示しておりインパクトも大きい。さらに、水素分子において電子も波束化した量子分子動力学法を開発した。これらの計算手法の開発により、量子効果が重要になる凝縮系のダイナミクスを効率よくかつ定量的に計算することを可能にした点、および液体水、液体水素の諸性質の再現と微視的ダイナミクスへの詳細な視点を与えた点でも極めて興味深く、またこの分野への波及効果も大きいと考えられる。多くの研究が独自のアイディアと思想に基づいて行われており、幅広い研究対象への視点を持っているという点でも、金氏の今後の研究の発展は十分に期待できる。以上のことから、審査委員会は金氏が第10回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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