第7回若手奨励賞(領域12)の受賞者及び受賞理由

 

第7回若手奨励賞は、

池田昌司さん(モンペリエ第二大学シャルルクーロン研究所)

光武亜代理さん(慶應義塾大学理工学部物理学科)

2名が受賞されました。おめでとうございます。

賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
(渡辺純二 第7回若手奨励賞審査委員長)


池田昌司さん(モンペリエ第二大学シャルルクーロン研究所)

研究題目:平均場描像を軸にしたガラス転移とジャミング転移の研究

対象論文:
"Mode-coupling theory as a mean-field description of the glass transition" Phys. Rev. Lett. 104 (2010) 255704
"Glass transition of the monodisperse gaussian core model" Phys. Rev. Lett. 106 (2011) 015701
"Unified study of glass and jamming rheology in soft particle systems" Phys. Rev. Lett. 109 (2012) 018301

 
  池田氏はガラス転移の根本的問題に取り組んでいる。 まず、ガラス転移の平均場描像であるモード結合理論に関して基礎的な研究を行っている。高次元剛体球系において、ガラス転移の第一原理理論として知られるモード結合理論をスピングラス理論から発展したレプリカ理論と厳密に比較し、両者が整合しないこと、また、その理由がモード結合理論の原理的な問題にあることを初めて明らかにしたもので、大変注目されている。 次に、ガウスコア模型が平均場的なガラス転移を起こすことを大規模シミュレーションによって示した。この結果は、二体間相互作用に「やわらかさ」を入れることのみによって、フラストレーションや多成分性などを入れずに、ガラス転移が起きることを示した、と言う意味で画期的である。また、すり抜け出来る粒子がモード結合理論と言う平均場描像で良く記述できると言う意外な結果を示し、その独創性は高い。 さらに最近の研究では、低温でのシミュレーションにより、ガラス転移とジャミング転移が別々の転移であることを示した。ジャミング転移とガラス転移の統一的理解という現在注目されている問題を、剪断流を使った、自然な方法で達成できることを示した、独創性も発展性も高い研究と考えられる。 これらは化学物理の基礎に関する重要な研究成果であり、他の研究への波及効果も大きい。以上のことから、審査委員会は池田氏が第7回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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光武亜代理さん(慶應義塾大学理工学部物理学科)

研究題目:生体分子系で有効な拡張アンサンブル法及び構造解析法の開発

対象論文:
"Simulated-tempering replica-exchange method for the multidimensional version" J. Chem. Phys. 131 (2009) 094105
"Multidimensional generalized-ensemble algorithms for complex systems" J. Chem. Phys. 130 (2009) 214105
"Relaxation mode analysis of a peptide system: Comparison with principal component analysis" J. Chem. Phys. 135 (2011) 164102


  光武氏は、生体分子系のシミュレーションに関する研究を進めている。 生体高分子と溶媒分子との相互作用は、生命機能の発現のために重要であると考えられている。とくに、水溶媒中のタンパク質について、分配関数を計算し、その安定性を議論することは、生物物理・ソフトマター物理などにおける中心的課題であった。光武氏は、溶媒を含む生体分子系で有効な拡張アンサンブル法の開発に関する研究を行なってきた。その中で、拡張アンサンブル法で用いられてきた各種のアルゴリズムの弱点や優れた点を統一的な視点から調べ上げ、一般的な研究手法として用いることができるようなレベルにまで研究を発展させてきたことは高い評価に価するものである。 そして、光武氏の拡張アンサンブル法を用いた蛋白質の分子シミュレーションによる研究は、蛋白質の分子シミュレーション分野に大きな変革をもたらした。現在では、光武氏らが開発したレプリカ交換法などの拡張アンサンブル法が、蛋白質の分子シミュレーション分野において、国内外で広く用いられるようになっている。 これらの拡張アンサンブル法の開発は、多自由度複雑系におけるシミュレーションに関する重要な研究成果であり、他の研究への波及効果も大きい。以上のことから、審査委員会は光武氏が第7回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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