第8回若手奨励賞(領域12)の受賞者及び受賞理由

 

第8回若手奨励賞は、

斉藤圭亮さん(大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻)

濱田勉さん(北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科)

2名が受賞されました。おめでとうございます。

賞の対象となった研究題目と受賞理由は下記の通りです。
(岡本祐幸 第8回若手奨励賞審査委員長)


斉藤圭亮さん(大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻)

研究題目:光合成蛋白質における電子・プロトン移動の理論研究

対象論文:
K. Saito, T. Ishida, M. Sugiura, K. Kawakami,Y. Umena, N. Kamiya, J.R. Shen, and H. Ishikita, "Distribution of the cationic state over the chlorophyll pair of the photosystem II reaction center,” J. Am. Chem. Soc. 133, 14379-14388 (2011).
K. Saito, A.W. Rutherford, and H. Ishikita, "Mechanism of proton-coupled quinone reduction in Photosystem II," Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 954-959 (2013).
K. Saito, A. W. Rutherford, and H. Ishikita, "MechanismoftyrosineDoxidation in Photosystem II," Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 7690-7695 (2013).

 
  斉藤氏は光合成蛋白質における電子・プロトン移動の理論的研究をおこなってきた。初期は反応速度論を基礎とする理論解析の研究を行っていたが、より具体的な問題を解決するためには、蛋白質構造に基づいた計算科学的手法が極めて重要となる。斉藤氏は QM/MM 計算を用いた独自の方法を開発し、これを用いて下記に説明するように多くの成果を挙げてきた。まず着目したのは、光化学系IIの中心に位置するクロ ロフィル二量体である。この二量体が持つ高い酸化還元電位と、2つのクロロフィル の電位の非対称性の原因が、大きな問題として残されていた。斉藤氏は、蛋白質構造に基づく理論計算でその理由の重要な部分を明らかにした。そして、光化学系 IIの水分解に関与するアミノ酸残基が、静電的相互作用を介して遠く離れたクロロフィルの酸化還元電位を決め、さらに水分解を可能にする、という興味深い事実をはじめて示した。電荷分離によりクロロフィルから飛び出した電子は、蛋白質に埋め込まれたキノン分子へと移動する。この電子移動はプロトン移動反応と共役しており、2電子還元の後、キノンはプロトン化されキノールとして蛋白質から脱離する。斉藤氏はこのプロトン共役電子移動反応の機構を明らかにした。こうした短い水素結合とプロトン移動との関係は、蛋白質においてよく見られる普遍的な現象であることが、引き続き行われた斉藤氏の研究により明らかにされた。これらの研究成果は、光合成に関する重要で基礎的な成果であるばかりでなく、蛋白質が電子移動やプロトン移動をどのように制御しているのかという生物物理学における普遍的な問題に関しても重要な結果を与えており、他の分野への波及効果も大きい。以上のことから、審査委員会は 斉藤氏が第 8 回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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濱田勉さん(北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科)

研究題目:細胞モデル膜小胞の時空間ダイナミクスと機能制御

対象論文:
T. Hamada, R. Sugimoto, M. Vestergaard, T. Nagasaki, and M. Takagi, "Membrane disc and sphere: controllable mesoscopic structures for the capture and release of a targeted object," J. Am. Chem. Soc. 132, 10528-10532 (2010).
T. Hamada, M. Morita, M. Miyakawa, R. Sugimoto, M. C. Vestergaard, and M. Takagi, "Size-dependent partitioning of nano/micro-particles mediated by membrane lateral heterogeneity," J. Am. Chem. Soc. 134, 13990-13996 (2012).
T. Hamada, Y. Hirabayashi, T. Ohta, and M. Takagi, "Rhythmic pore dynamics in a shrinking lipid vesicle," Phys. Rev. E 80, 051921 (7 pages) (2009).


  濵田氏は外部刺激によるベシクル形態変化や機能制御の実験的研究を行ってきた。光応答性アゾベンゼン脂質を膜内に導入し、光スイッチによる分子形状の変化を通して、べシクル膜の孔の開閉が制御可能である事を示した。膜分子反応に伴う弾性エネルギー変化の定量的解析により、その物理機構を明らかにした。これは、細胞内での物質輸送であるオートファジー小胞機能を世界で初めて人工的に再現したものであるとともに、応用面でもドラッグデリバリーシステム開発の設計に重要な指針を与えるものである。また、濵田氏は膜と相互作用するコロイド粒子が、その粒子サイズに依存して吸着する膜領域を変化させることを明らかにした。臨界粒子サイズ以下のコロイドは膜の秩序相に、それより大きいコロイドは無秩序相に選択的に分配されることが実験的に示され、その物理原理についても詳細に検討した。更に、濵田氏は膜構成分子と界面活性剤が反応する非平衡過程において、ベシクル開閉の自励振動を見出し、振動のオン・オフおよび振動周期が、ベシクルサイズと界面活性剤濃度により記述できる事を示した。このような膜系の非平衡ダイナミクスに関する研究は、時間的・空間的秩序を自律制御する生体分子システムの作動原理の理解に繋がるフロンティア的な研究である。以上のことから、審査委員会は濵田氏が第8回若手奨励賞受賞候補者としてふさわしいと判断した。


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